【16代卒業公演】終演のご挨拶

EM16代卒業公演「解散」で脚本演出を努めさせて頂きました。有賀実知です。最後に書く言葉が見つからず、公演からずいぶん間が空いてしまいました。大変申し訳ありません。

四年間共に舞台を作ってきた仲間と共にもう一度だけ、無意味でもいいから純粋な気持ちで舞台が作りたかった。それが果たせたことが何より幸せです。そしてその無意味なひと夏の時間がその先の人生になんも足しにならなくても、しょうもない若気の至りでも決して無価値ではないのだ、というメッセージが、独りよがりな思いではなく少しでも作品からお客様の心に届いていれば幸いです。
作りたい舞台の理想は高く、追い付かない実力や迫り来る時間に苦しみながら駆け抜けた2ヶ月間でした。正直なところ、悔しい思いも沢山残ります。その半面、舞台を作るのは何て楽しいんだと全身で感じなから過ごした2ヶ月でもあります。
私たちの舞台を見届けようと沢山のお客様が観に来てくださったことが何にも代え難い喜びです。本番を見せていながら、皆様一人一人に感謝の気持ちをお伝えしているような心持ちでした。初めて観に来て頂いた方、後輩の皆にはミュージカルサークルEMという場所の面白さが少しでも伝わっていれば嬉しいです。そして、家族や友人、先輩、支えてくださった全ての皆様。4年間、本当にありがとうございました。今後も私たちの事をどうかよろしくお願い致します。
最後に、告白を。
タイトルを「解散」と決めた春先、半分冗談、半分本気で、卒業公演なんて仲が良いのは今だけで同期達と大喧嘩しながら揉めに揉めてテンデンバラバラで解散になっちゃうんじゃないかと思っていました。メンバー皆の思い入れが強くて、沢山夢を抱いていた公演だからこそです。そんな皮肉をこめて解散と名付けました。
しかし、終わってみれば、私の方が支えられてばかりの公演でした。脚本が書けず、稽古も演出もしきれずボロボロの私を、それでも脚本演出家としてなんとか最後まで居させてくれたのは座組みの皆の力です。最後の最後にギリギリの綱渡りのような公演、泥舟に乗せてしまいました。座組みの皆。最後まで散り散りにならず、あきらめないでくれて、ありがとう。この場をお借りして伝えさせてください。
この度は、ミュージカルサークルEM16代卒業公演「解散」にご来場頂き、誠にありがとうございました。
脚本演出・有賀実知

【作品に関して】

本作に登場した”渡訪”という地名や神々は架空のものですが、古事記の神話や私の地元である長野県諏訪市にまつわる神話をモデルにしています。元ネタを知りたいと言うお声をいくつか頂いたので、込み入った内容になりますが、簡単にご紹介致します。
出雲から渡り訪れた神であり、湖に祀られた水神・渡訪神のモデルは、古事記の中で「国譲り神話」「天孫降臨」とよばれる部分に登場す建御名方神(大国主の次男)です。
また、土着の山神・杜谷神のモデルは、諏訪の神話に登場する洩谷神です。建御名方神が諏訪に渡ってきたときに闘ったとされています。
諏訪には、諏訪湖の回りに4つの境内をもつ諏訪大社という大きな神社があります。7年に1度の大祭である「御柱祭」や、毎年夏の始めにある「お舟祭」、冬の湖に現れる「御神渡」と呼ばれる自然現象。これらを掛け合わせたのが本作に登場した”神渡りの儀”です。
作中に「嵐が来るぞ」というフレーズがありました。これは昨今の台風が猛威を振るう前からあった設定です。平成18年に諏訪で起きた豪雨災害は、湖と川の氾濫、山の土砂崩れによって大きな被害を生みました。諏訪の盆地にとって湖と山は生活と切り離せない存在です。だからこそ、古くから諏訪の人々は自然を畏れて、豊作を祈り吉凶を占う信仰と密接にあったのだと思います。

そして、諏訪信仰や神話は日本の民族の流動と密に関わっています。幼い頃、時折父が晩酌をしながら私に語ってくれていた諏訪の神話や民族史が、縄文時代の話なのか弥生時代の話なのか古墳時代の話なのか良く分からないまま、それでもなんとなく面白かったのをずっと覚えていたことが、今回のお話の出発点です。